最も強力な歯と顎を持つ魚と言えばホオジロザメを思い浮かべるでしょう。古生代デボン紀後期(約3億8,200万~ 3億5,800万年前)に大きな顎を持つ魚は北アメリカ大陸、北アフリカに生息していたではダンクルオステウスでした。
ダンクルオステウスは板皮類(ばんぴるい)というグループに分類されているデボン紀後期の中でも最大の生物です。板皮類はアゴに骨を持ち、頭部と胸が骨でできた硬い甲羅で覆われているので、甲冑魚(かっちゅうぎょ)とも呼ばれます。
ダンクルオステウスの最大の特徴はその顎です。歯に見える部分は骨の板。歯ではありません。頭骨の一部が歯の役割をするために変形したものです。
これにより、ダンクルオステウスは獲物を一撃で噛み砕くことができ、デボン紀の海においてダンクルオステウスは最強の捕食者として生態系の頂点に君臨していました。
それまで海で繁栄していた節足動物のウミサソリや軟体動物のオウムガイの仲間には頑丈な外殻や殻を持つものが多く存在していました。これに対抗して魚類も硬い装甲板を持ったダンクルオステウスが出現しました。
デボン紀は魚類が大繫栄したことから「魚の時代」とも呼ばれています。
ダンクルオステウスの頭部は頑丈な外骨格で形成されていたため、化石として残りやすいという特性がありました。
しかし、身体の後半部は軟骨であったため、化石は非常に少ないのでこの魚の姿かたちがどのようなものであったかは正確には知ることができません。
最近の研究ではダンクルオステウスの全長は以前考えられていた8〜10メートルよりもずっと小さく、約4メートルであったとされています。これは、頭蓋骨と体の比率を再考察したからです。
古代魚ダンクルオステウスは浮袋を持たず、重い装甲板に覆われていたため、泳ぐ能力は決して高くありませんでした。そのため海底をゆっくりと移動していたと考えられますが、遊泳力が高い生物はほとんどいなかった当時の海ではダンクルオステウスの泳ぐ速さでも十分獲物を捕食することができたと考えられます。
強大な捕食者も永遠に続くわけではありませんでした。デボン紀の終わりには、大規模な絶滅イベントが発生し、ダンクルオステウスを含む多くの板皮類は絶滅し、その後現れることはありませんでした。
デボン紀の大量絶滅の原因として有力視されているのは環境変化による海水面の後退や、急激な寒冷化です。これにより海の生態系が破壊され海洋生物の82%が絶滅したといわれています。
巨大な体と強力な顎を兼ね備えたダンクルオステウスでしたが、遊泳力に優れ高速で獲物を追い回すサメとの生存競争に勝つことができなかったことも絶滅に関係しているかもしれません。
化石から大きくて強い生き物が生き残るのではなく、適応能力がある生物が生き残ります。
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